インターネット規制が続くロシアで「Delta Chat」というメッセージアプリが広まっています。SignalやWhatsAppが使用できない状況下で、Delta Chatはなぜ普通に使用できるのでしょうか。
この記事では、Delta Chatの仕組みと、その限界について、分かりやすく解説します。
Delta Chatとは何か:見た目はチャットアプリ、中身は電子メール
Delta Chatは「見た目は普通のチャットアプリだが、内部では電子メールの仕組みを使う分散型メッセンジャー」です。
画面はLINEやSignalなどと同じような一般的なメッセージアプリのUIですが、裏側ではSMTPやIMAPといった、メールの仕組みが使われています。世界中に分散したメールサーバー郡(Chatmailリレー)を通信経路として使用しています。
完全に無料で使用でき、登録にメールアドレスや電話番号は必要ありません。
ドイツのmerlinux GmbHがオープンソースで開発しており、Android、iOS、Windows、macOS、Linuxで利用できます。
なぜロシアでもブロックされないのか
なぜ今Delta Chatがロシアで広まっているのかと、その限界について解説します。
中央サーバーが存在しない
ロシアの厳しい検閲下でもDelta Chatが動き続けている理由は、「ここを止めれば全員が使えなくなる」という中央サーバーがないからです。
Delta Chatはユーザーごとに接続先がバラバラで、止めるべき相手が分散しています。さらに2026年3月のv2.48では複数リレーを同時利用する「マルチパス配信」が導入され、一経路が遮断されても自動で別経路に切り替わります。
3段階の逃げ道
Delta Chatの検閲耐性が強い理由は、3段階の構造にあります。
Delta Chatの公式サーバー(Chatmailサーバー)は、エンドツーエンド暗号化や自動メッセージ削除などのチューニングはされていますが、技術的には一般的なSMTP/IMAPで動くメールサーバーです。
もしChatmailサーバーがブロックされた場合は、Gmailや、ロシアで一般的なYandexやMail.ru、さらには自前のメールサーバーなどを使うことができます。ロシアがインターネット規制を強化するといっても、YandexやMail.ruまで止めるのは影響が多すぎます。
さらにv2.48以降は、複数経路を同時に動かし、ある経路がブロックされた場合は自動的に別経路へフェイルオーバーするマルチパス配信が実装されています。
この3段階のブロック回避が、ロシアでダウンロード数が急上昇している理由です。
完全な匿名ではない
Delta Chatは本文はエンドツーエンド暗号化されますが、「誰が誰あてに、いつ送ったのか」というメタデータはメールサーバーに残ります。
これは、暗号メールサービスで有名なProton Mail等と同じです。
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開発元のmerlinuxが運営しているサーバーであれば、メタデータが提供されることはありません。同社は2025年5月にロシア政府に訴えられ敗訴していますが、「渡せるデータが存在しない」と表明しています。
しかし、YandexやMail.ruのサーバーを使用した場合は、以下のような情報が当局に開示される可能性があります。
- 送信者、受信者
- 送信時刻
- メッセージサイズ
- IPアドレス
- アカウント登録時に紐づけられた電話番号
- Delta Chatを使用しているという事実(独自のMIME構造やヘッダから判別可能)
暗号化されていて保護されるのは、以下のような情報です。(暗号メールサービスとほぼ同じ)
- 本文
- 件名
- 添付ファイル
Signalとの違い
暗号メッセージサービスとして有名なSignalとの違いは、Signalはより秘匿性が高いがブロックされる可能性があるのに対し、Delta Chatは秘匿性は弱いがブロックされる可能性は低い、ということです。
表にまとめました。
| 項目 | Signal | Delta Chat |
|---|---|---|
| 登録 | 電話番号必須 | 匿名で登録可能 (Chatmailサーバーの場合) |
| サーバー | Signal Foundation (米国) | 世界中の分散リレー |
| 暗号化 | Signal Protocol (業界標準) | Autocrypt + OpenPGP |
| 前方秘匿性 | あり | なし (2026年中対応予定) |
| ブロック耐性 | 中 (IPアドレスで遮断) | 高 (普通のメールなので止められにくい) |
| 配信速度 | 即時 | 数秒~数分 |
| 通話 | 優秀 | 実験段階 |
| 利用者数 | 約1億人 | 100万人程度 |
前方秘匿性とは、秘密鍵が漏洩しても、過去の通信は解読されない性質のことです。Delta Chatは今年中に対応予定としています。
ほとんどのユーザーにとってはSignalの方が向いており、Delta Chatはロシアのような規制環境下での選択肢となります。
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Delta Chatを使ってみる
Delta Chatのアカウント登録と、基本的な使い方を解説します。
アカウント登録
Delta Chatの導入は簡単です。
公式サイトのリンクからアプリを入手します。PCでもスマホでも利用できます。
アプリを起動したら、「CREATE NEW PROFILE」をタップします。
好きな名前を設定します。アイコン画像を設定することもできます。
最初は「nine.testrun.org」という公式サーバーが選択されていると思います。普通はこのままで大丈夫です。他のサーバーに変更することもできます。
「AGREE & CREATE PROFILE」をタップします。これだけで登録は完了です。
通信相手を登録するには、右上のアイコンをタップし、QRコードをスキャンします。リンクでの登録も可能です。
あとは一般的なメッセージアプリと同じです。ファイルを共有することもできます。
メッセージは20日で自動的に消える
Delta Chatの容量と保存期間は接続先サーバーによって異なります。多くのユーザーが利用する公式サーバーの設定は次の通りです。
- メールボックス容量:700MiB
- メッセージは到着から最長20日で自動削除
- 1分あたり最大60メッセージ送信
- 暗号化されていないメッセージはブロック
メッセージが消えるのは設計思想によるもので、サーバー側にデータが残らないことがプライバシー保護に直結しています。
クラシックモードとは
プロフィールを作成する際に、「Use Other Server」→「USE CLASSIC EMAIL AS RELAY」を選択すると、既に持っているメールサーバーのメールアドレスとパスワードでDelta Chatを使用できるようになります。
ただしこのモードには2つの注意点があります。
①使用中のメールアドレスで登録しないこと
Delta Chatは、普通のメールと同じSMTP/IMAPといったプロトコルを使用しますので、処理が衝突する可能性があります。
②デフォルトでエンドツーエンド暗号化とならない
公式のChatmailサーバーは、独自設定により強制的にエンドツーエンド暗号化されていますが、普通のメールサーバーを使用した場合は暗号化されません
Appとは
ファイルを添付しようとした時に表示される「App」とは、「WebXDC」と呼ばれるチャット内で動くミニアプリストアで、ToDoリストやゲームなどを参加者に共有することができます。
ただし実用性はほぼなく、現状は技術的なデモと捉えておくのが妥当です。
まとめ
Delta Chatについてのまとめです。
- 見た目はチャットアプリ、裏側は電子メール網を使う分散型メッセンジャー
- 中央サーバーがないため、ロシアのような検閲環境でも遮断されにくい
- 暗号化の成熟度はSignalに劣るが、検閲耐性は高い
- Chatmail利用時は他のDelta Chatユーザーとしか通信できず、配信速度もやや遅い
- メッセージは20日で自動削除、容量はサーバーごとに異なる
- メタデータは漏れるため、本気の追跡対策には向いていない
- 日本では「将来に備えて知っておくべき選択肢」という位置づけ
現状、日本でDelta Chatを使用する必要はありませんが、今後規制が強化された時に備え、このようなツールが存在することは知っておいても良いと思います。







