AdGuardは広告ブロッカーとして世界的に使われていますが、「ロシア製と聞いて不安」「証明書を入れろと言われて怖くなった」「無料版は本当に無料なのか」といった疑問で検索する人が少なくありません。この記事では、公式の一次情報をもとに、AdGuardの運営会社、通信を扱う仕組みと実際のリスク、無料版と有料版の違い、そして安全に使うための設定を順に説明します。結論を先に言うと、AdGuard本体は適切に設定すれば危険性の低いソフトで、注意が必要なのはHTTPSフィルタリングという機能と、Android版の入手経路の2点です。
AdGuardの危険性についての結論
AdGuardは、公式サイトから入手し、HTTPSフィルタリングの意味を理解したうえで使えば、個人情報が抜き取られるような危険性は確認されていません。閲覧内容の処理は端末内で完結し、運営会社はキプロスの法人です。
ただし、次の3つは知らずに使うと困る可能性があります。
- HTTPSフィルタリングを有効にすると、暗号化された通信をAdGuardが一度ほどいて中身を確認する
- Android版はGoogle Playにないため、公式サイト以外から入手すると偽物をつかむ危険がある
- 一部のサイト(確定申告の作成コーナーなど)は広告ブロックが原因で正常に動かない
以下で、それぞれの根拠と対処法を見ていきます。
AdGuardはどこの国の会社か
AdGuardを開発しているのは、キプロスのリマソールに本社を置くAdGuard Software Limitedです。公式サイトの会社案内では、2009年設立のインターネットフィルタリングソフトの開発企業と説明されています。
「ロシア製」と言われる理由も、公式の説明で確認できます。AdGuardは2009年にモスクワで創業し、その後EU法の下で事業を行うために本社をキプロスへ移しました。公式ブログでは、開発者の多くが歴史的にモスクワで働いてきたこと、近年はキプロスや他国への移転が進んでいることも述べられています。
つまり「創業はロシア、法人と本社はEU加盟国のキプロス」が正確なところです。この経緯をどう評価するかは人によりますが、少なくとも所在地を隠している会社ではありません。
データの扱いはプライバシーポリシーでどう書かれているか
2024年8月7日更新のプライバシーポリシーでは、AdGuardのアプリは端末内でトラフィックを処理し、どのサイトを訪問したかは把握しない、と明記されています。個人情報の販売や共有も、本人の同意か法的義務がある場合を除いて行わないとされています。クラッシュレポートなどの診断情報も、初期設定では送信されず、同意した場合に限られます。
もちろんポリシーは会社側の宣言なので、それだけで安心するのは早いです。そこで次に、仕組みの側から確認します。
AdGuardが通信を扱う仕組みと、本当のリスク
AdGuardの広告ブロックは、端末の中で通信を検査して広告やトラッカーの通信だけを止める方式です。Windows版やAndroid版は「ローカルVPN」や「ローカルプロキシ」として動きますが、これは通信を外部のサーバーへ送る通常のVPNとは違い、端末の中だけで完結する仕組みです。Android版のインストール手順にも、すべてのトラフィックは端末上で直接フィルタリングされ、リモートサーバーは経由しないと書かれています。
ここまでは問題ありません。注意が必要なのは、暗号化された通信を扱う「HTTPSフィルタリング」です。
HTTPSフィルタリングで何が起きるのか
今のウェブサイトのほとんどはHTTPSで暗号化されているため、そのままでは広告ブロッカーは中身を読めません。そこでAdGuardは、インストール時に端末ごとに固有のルート証明書を作って端末に登録し、ブラウザとの間とサイトとの間に2つの暗号化接続を張り直します。ブラウザから見ると、サイト本来の証明書ではなくAdGuardが発行した証明書が見える状態になります。
これは「中間者」と同じ位置にAdGuardが立つということです。銀行や決済サイト、個人情報を多く扱うサイトは初期設定で除外されており、その除外リストはGitHubで公開されていますが、原理として、AdGuardが端末内で暗号化をほどいていることは変わりません。
実際に困る場面もあります。たとえば国税庁は、確定申告書等作成コーナーを使うときにブラウザ拡張機能のAdGuard広告ブロッカーの設定を一時的に変更する手順を公式に案内しています。広告ブロックが原因で手続きが進まないサイトは、他にも存在します。
2026年10月の証明書インシデントで分かったこと
HTTPSフィルタリングのもう1つの特徴は、サイトの証明書が正しいかどうかの検証を、ブラウザではなくAdGuardが担う点です。これが問題になったのが2026年10月の出来事でした。
2026年10月17日、認証局eMudhraの中間証明書8件について、秘密鍵が公開情報から1秒未満で復元できる状態だったと研究者が報告しました。GoogleとMozillaは数時間以内にこれらの証明書の信頼を取り消し、AppleとMicrosoftも続きました。AdGuardは10月30日の公式ブログで、自社は関与していないものの、HTTPSフィルタリングでは自分たちが証明書を検証する立場にあるため、問題の証明書をブロックリストに加えた緊急更新を全アプリに配布したと説明しています。修正版はWindows 8.0.3、Android 4.15.1、Mac 2.20.2、Linux 1.5です。
この件から言えるのは、HTTPSフィルタリングを使うなら、AdGuardを常に最新版に保つ必要があるということです。ブラウザの安全対策に加えて、AdGuard側の更新にも依存するようになるからです。古いWindows版7系を使い続けている人は、自動更新では修正が届かず、手動で7.22.10を入れる必要があったことも公式に書かれています。
HTTPSフィルタリングは切ってもいい
HTTPSフィルタリングは必須の機能ではありません。切ると広告ブロックの精度は下がりますが、通信をほどかれることへの不安がある人は、無効のまま使うという選択ができます。Android版の公式手順でも、HTTPSフィルタリングは品質向上のために推奨されるだけで、必須ではないと書かれています。
Android 7以降では、アプリ側がユーザーが入れた証明書を信頼しない設計にできるため、銀行アプリなどは証明書を入れてもフィルタの対象になりません。HTTPSフィルタリングを有効にすると「データが第三者に見られる可能性があります」という趣旨の警告がAndroidのシステムから表示されますが、これはユーザー証明書を入れたときにAndroidが必ず出す表示で、AdGuardが外部へ送信しているという意味ではありません。
どの部分がオープンソースなのか
AdGuardの安全性を外から検証できる範囲は、製品によって違います。GitHubのAdguardTeamで公開されているのは、ブラウザ拡張機能、家庭内DNSサーバーのAdGuard Home、フィルタリスト、スクリプトレット、DNSフィルタなどで、いずれもGPL-3.0などのオープンソースライセンスです。
一方で、Windows版とAndroid版のリポジトリは「バグトラッカー」として公開されているだけで、アプリ本体のソースコードは公開されていません。つまり、拡張機能やフィルタの中身は誰でも読めますが、HTTPSフィルタリングを行うデスクトップ版とAndroid版の中核部分は、会社を信頼する前提になります。この点は、uBlock Originのような完全オープンソースの拡張機能と比べたときの違いです。
Android版とiPhone版で危険性は違う
同じAdGuardでも、OSによって仕組みとリスクが異なります。
Android版はGoogle Playにない
Androidの「AdGuard」本体は、Google Playでは配布されていません。Googleが、他のアプリの広告をブロックするネットワークレベルの広告ブロッカーをGoogle Playで禁止しているためです。公式の入手方法は、adguard.com/apkからAPKファイルを直接ダウンロードし、「提供元不明のアプリ」を許可してインストールする手順になります。対応OSはAndroid 9.0以上です。
ここで気をつけたいのは、検索で出てくる非公式のAPK配布サイトです。「adguard apk mod」のような改造版を探す人もいますが、広告ブロッカーは全通信を扱うアプリなので、出所の分からないAPKを入れるのは、広告を見るよりはるかに危険です。必ず公式サイトから入手してください。
なお、Google Playにある「AdGuard コンテンツブロッカー」は、Samsungブラウザなど対応ブラウザの中だけで動く別のアプリで、システム全体の通信は扱いません。
iPhone版は仕組み上リスクが小さい
iOS版のAdGuardは、Safariのコンテンツブロッカー機能とDNSフィルタで動きます。iOSの制限により、Androidやパソコン版のように通信を復号するHTTPSフィルタリングは行いません。そのため「証明書を入れる」「通信をほどく」といった心配はそもそも当てはまらず、ブロックできる範囲が狭い代わりに危険性も小さい、という関係になります。
YouTubeなどの複雑な広告には「高度な保護」という有料機能で対応しますが、それでもSafari内が中心で、他のアプリ内の広告はDNSフィルタで止められる範囲にとどまります。「iPhoneでAdGuardが効かない」と感じる場面が多いのは、この仕組みの制限によるものです。
Chromeの拡張機能版はManifest V3の制限を受ける
ブラウザ拡張機能版は、Chromeの新しい拡張機能基盤Manifest V3の影響を受けています。uBlock Originの完全版はChromeで使えなくなり、AdGuardは2024年9月にManifest V3対応版を公開しました。公式ブログは、一般的な利用ではほとんど差を感じないが、カスタムフィルタを多用する上級者は制限を受けると説明しています。
AdGuard自身は、ブラウザに左右されないデスクトップアプリ版を推奨しています。ただしデスクトップ版は前述のHTTPSフィルタリングを使う製品なので、「拡張機能の制限」と「HTTPSフィルタリングの仕組み」のどちらを受け入れるかという選択になります。Braveのように、AdGuardを含む一部のManifest V2拡張を引き続きサポートするブラウザもあります。
無料版と有料版の違い
AdGuardには無料で使える範囲と、有料ライセンスが必要な範囲があります。
- ブラウザ拡張機能(Chrome、Firefox、Edge、Safariなど)は無料
- AdGuard DNSの個人向けプランは無料枠あり
- Windows、Mac、Android、iOSのアプリ本体は有料ライセンスが基本(試用期間あり)
有料ライセンスは、3台まで使えるパーソナルと、9台まで使えるファミリーの2種類で、それぞれ1年版と永久版があります。1つのライセンスでiPhone、Android、Windows、Macを組み合わせて使えます。請求はドル建てで、購入後30日以内なら理由を問わず全額返金されます。公式サイトではセールが頻繁に行われているので、永久版を買うならセール時期を待つと安く済みます。
無料版で十分かどうかは、どこで広告を消したいかで決まります。ブラウザの広告だけならば、拡張機能版で足ります。アプリ内の広告やスマホ全体の広告を止めたいなら、有料のアプリ版が必要です。
AdGuard広告ブロッカーの公式サイトはこちらです:AdGuard 公式サイト
280blockerやBraveと比べてどうか
「AdGuardと280blockerはどっちがいい」「Braveとどっちがいい」という質問も多いので、要点だけ整理します。
- 280blockerは日本製で、iPhoneのSafari向けに特化した買い切りアプリです。日本のサイトの広告に強く、仕組みはAdGuardのiOS版と同じコンテンツブロッカーです。iPhoneのSafariだけで良いなら、どちらを選んでも安全性に大きな差はありません
- Braveはブラウザ自体に広告ブロックが組み込まれているので、拡張機能も証明書も不要です。ブラウザを乗り換えてもよい人には、いちばん手間のかからない選択です
- AdGuardの強みは、1つのライセンスでパソコンとスマホの全アプリをまとめて対象にできることです。その代わり、デスクトップ版とAndroid版ではHTTPSフィルタリングという仕組みを理解して使う必要があります
AdGuardのDNS版やVPNとの違いについては、別記事の「AdGuard DNSはおすすめできる?」と「AdGuard VPNとは何?危険性はある?」で詳しく説明しています。
AdGuardを安全に使うための設定と習慣
ここまでの内容を踏まえて、実際に使うときの注意点をまとめます。
- アプリ版は必ず公式サイトから入手し、改造APKや非公式ミラーは使わない
- HTTPSフィルタリングは、仕組みを理解したうえで有効にするか決める。不安なら無効のままでも使える
- 自動更新を有効にし、古いバージョンを使い続けない。証明書の検証をAdGuardに任せる以上、更新の遅れがそのまま危険につながる
- 銀行や行政のサイトで不具合が出たら、AdGuardを疑って一時的に無効化する。確定申告の作成コーナーのように、公式が設定変更を案内しているサイトもある
- 「開発への協力」や統計送信のチェックは任意なので、送りたくなければ外しておく
まとめ AdGuardは危険ではないが、仕組みを知って使うもの
AdGuardは、キプロスに本社を置く企業が開発する広告ブロッカーで、閲覧内容を端末の外に送らない設計を公式に明示しています。ロシアで創業した経緯はありますが、会社がそれを隠しているわけではなく、評価は利用者の判断に委ねられています。
危険性として本当に向き合うべきなのは、HTTPSフィルタリングが暗号化通信をほどく仕組みであること、そしてその検証をAdGuardの更新に依存することです。2026年10月の証明書インシデントは、この仕組みの弱点と、AdGuardが迅速に対応したことの両方を示しました。
公式サイトから入手し、更新を止めず、HTTPSフィルタリングの意味を理解して使うなら、AdGuardは広告とトラッカーを減らす有力な選択肢です。まずは無料のブラウザ拡張機能から試し、スマホ全体やアプリ内の広告まで消したくなったら、有料版を検討するのが無理のない順番です。
