インターネット上のウェブサイトを自動的に保管しているインターネットアーカイブというサービスを聞いたことがあるかもしれません。しかし勝手に保管して、著作権は大丈夫なのでしょうか。実はインターネットアーカイブは、ウェブサイトだけでなく、アニメや漫画、ゲームといったデジタルデータも保管しています。これらを視聴することは違法なのでしょうか。この記事では、インターネットアーカイブの使い方と注意点について解説しています。
インターネットアーカイブは違法?
インターネットアーカイブのサービス内容と著作権法の問題について解説します。
インターネットアーカイブとは
「インターネットアーカイブ(Internet Archive)」とは、デジタルデータを保存することを目的とした、アメリカの非営利団体です。
インターネットアーカイブは、書籍や映画など様々なデータを保存していますが、一番のメインはウェブサイトで、これを保存するサービス名を「ウェイバックマシン(Wayback Machine)」と言います。
インターネットアーカイブが団体名で、ウェイバックマシンがサービス名なのですが、インターネットアーカイブがサービス名を指していることも多いです。
インターネットアーカイブでできること
インターネットアーカイブには、Wayback Machineだけではなく、多数のプロジェクトがあります。
データの保管・閲覧
Wayback Machine
「Wayback Machine」は、インターネットアーカイブのメインプロジェクトで、過去のWebページを保存し、閲覧できるサービスです。
基本的にはクローラーが自動的に巡回し、保存をしていきますが、手動でページを保存する「Save Page Now」機能もあります。
ウェブ魚拓は手動のみですが、Wayback Machineは自動で収集されるという点が異なります。
Open Library
「Open Library」は、世界中の書籍をデジタル化し、貸出をするサービスです。
「Controlled Digital Lending(CDL)」という、物理的な本一冊につき、一人だけに貸出をできるという仕組みを採用しています。
Software Archive
「Software Archive」は、希少なアプリケーションや、ゲームなどを保存するプロジェクトです。
MS-DOSやアーケードなどのレトロゲームを、ブラウザ上でプレイできるような機能も提供されています。
Education
「Education」は、学術用の教材や論文、ビデオなどを揃えるプロジェクトです。
Political TV Ad Archive
「Political TV Ad Archive」は、2016年に開始されたプロジェクトで、アメリカ国内の政治広告を記録しています。
政治の透明性を向上させることを目的としており、ジャーナリストや選挙研究者に利用されています。
データ管理ツールの提供
Scanning Services
「Scanning Services」は、物理的な書籍や文章を、非破壊でデジタル化するサービスです。
図書館や企業などから依頼を受け、多くの貴重な資料をアーカイブに加えています。
Archive-It
「Archive-It」は、図書館や政府機関向けに、デジタルコンテンツを管理するためのツールを提供するプロジェクトです。
BookServer
「BookServer」は、電子書籍を配布するためのプラットフォームを提供するサービスです。
Petabox
「PetaBox」は、1ペタバイトのデータを保存できるように独自に設計された低コストのストレージで、学術機関や政府機関にも提供されています。
デジタルライブラリーの構築
Open Content Alliance
「Open Content Alliance」は、世界中の文化施設と協力し、歴史的資料をデジタル化し、誰にでもアクセスできるようにするプロジェクトです。
Building Libraries Together
「Building Libraries Together」は、複数の図書館が協力し、リソースを共有することで、オープンなデジタルライブラリーを構築するプロジェクトです。
アクセス環境の提供
Offline Archive
「Offline Archive」は、インターネット接続が制限されている地域や災害地などに、オフラインでアクセスできるローカルサーバーや物理メディアを提供するサービスです。
Open Community Networks
「Open Community Networks」は、インターネット環境が存在しない地域や、金銭的に利用できないコミュニティ向けに、無償で利用できるインターネット環境を提供するプロジェクトです。
Bookmobile
「Bookmobile」は、衛星ネットワークとモバイルプリンターを利用した移動型の図書館で、教育イベントなどで、その場で紙媒体として提供するプロジェクトです。
その他
301Works.org
「301Works.org」は、短縮URLなどのリダイレクトサービスが将来的にサービス終了する場合に備えて、リダイレクト先情報を保存しておくサービスです。
インターネットアーカイブの問題点
インターネットアーカイブは営利目的で運営されている訳ではありませんが、著作権を侵害していると批判されたり、訴訟を起こされたりすることがあります。
著作権保護期間中の資料を公開
膨大な資料をデジタル化する過程で、著作権保護期間中の書籍や映画が、誰でもダウンロードできる状態になってしまうことがあります。これは、著作権の複製権や公衆送信権の侵害にあたります。
例えば、フランク・シナトラなどの古い音源をデジタル化して公開していましたが、大手レコード会社から訴訟を提起されました。裁判は進行中です。
デジタル図書館の運用
インターネットアーカイブでは、デジタル書籍を、CDLという仕組みで冊数を制限して貸し出しています。
2020年に、新型コロナウイルスの影響で図書館が閉鎖された際、冊数の制限を一時的に解除したところ、大手出版社から訴訟を提起されました。
裁判所は、出版社の主張を支持し、インターネットアーカイブの敗訴が確定しました。
アーカイブされたウェブサイト
インターネットアーカイブでは、ウェブサイトを自動的に保存し、公開しています。これは、著作権侵害とみなされる可能性があります。
また、サイトの管理者がコンテンツを削除した後でも、インターネットアーカイブに残っている場合、権利者の意図に反すことになります。
DMCA(デジタルミレニアム著作権法)に基づく削除リクエストや、robots.txtによるクロール拒否は可能なので、裁判になったケースはないようです。
誤ったライセンス分類
著作権保護対象の素材が、誤ってクリエイティブ・コモンズやパブリックドメインと分類され、公開されることがあります。
これは、インターネットアーカイブが収集した時点で誤っている場合もあり、問題は複雑です。
また、インターネットアーカイブが正しく分類していたとしても、利用者はがそれを守る保証はないので、権利者が公開を好まないこともあります。
国際的な著作権法の違い
インターネットアーカイブはアメリカの団体なので、アメリカの著作権法に従っています。
著作権法は国によって異なるので、アメリカでは合法でも、他国では違法となる可能性があります。
日本とアメリカの著作権の違い
アメリカと日本の著作権の主な違いは、以下の通りです。
フェアユースに関する考えの違いから問題となることがあります。
アメリカ | 日本 | |
---|---|---|
個人の著作権の保護期間 | ・著作権者の死後70年 | ・著作権者の死後70年 |
法人の著作権の保護期間 | ・公表後95年 ・または、創作後120年 | ・公表後70年 ・または、創作後70年 |
著作権の発生条件 | ・創作時に自動発生 ・物理的な記録が必要 | ・創作時に自動発生 ・物理的な記録がなくても認められる場合がある |
フェアユース | ・広範囲に認められる | ・包括的な規定なし ・教育、引用などの例外規定はある |
著作人格権 | ・限定的 | ・強く保護される |
二次創作 | ・著作権者の許可が必要 ・フェアユースで認められる場合がある | ・著作権者の許可が必要 ・文化的に許容される場合がある |
インターネットアーカイブの利用方法⋯ってやっぱり違法じゃないか!
Wayback MachineとOpen Libraryの基本的な使い方と、コンテンツの問題点について解説します。
Wayback Machine
インターネットアーカイブの基本機能である、Waybacm Machineの使い方をご紹介します。
ブラウザで「https://archive.org/」を開き、「Wayback Machine」の欄にキーワードかURLを入力します。
今回は「yahoo.co.jp」と入力してみました。
すると、過去のアーカイブされた日時を選択することができます。
一番古い、1996年11月20日のアーカイブを選んでみました。
ちなみにYahoo! Japanが開設されたのは1996年4月1日からのようなので、かなり初期から保存されていることになります。
レイアウトは崩れていますが、当時のページがそのまま確認できます。
リンクを辿ることも可能です。
ニュースページを開いてみました。
ログインするとできること
インターネットアーカイブは誰でも情報にアクセスできることを目指していますが、アカウントを作成してログインすることで、より便利な機能を利用できるようになります。
書籍の貸出
「Open Library」から、電子書籍を借りることができるようになります。
借りられる冊数は、インターネットアーカイブが所蔵する物理的な書籍の数に基づいています。
コレクション管理
気に入ったページ、書籍、音楽、映画などをお気に入りとして保存し、コレクションとして管理することができます。
コンテンツのアップロード
文章、音楽、映画、画像などのコンテンツをアップロードすることができます。
アップロードされたコンテンツは、全世界のユーザーが利用できるようになります。
拡張ダウンロード
一部のコンテンツは、ログインユーザーのみがダウンロードできるようになっています。
コメントやレビューの投稿
コンテンツに対して、コメントやレビューを投稿し、他のユーザーと交流することができます。
Open Library
電子書籍を借りるには、「TEXTS」から「Open Library」を選択します。
「Borrow」をクリックすると借りることができます。
⋯⋯そのはずなのですが、何度やってもエラーとなって、読むことはできませんでした。原因は不明です。
拡張機能
Waybacm Machineは、ブラウザの拡張機能としても利用できます。
拡張機能ならではの機能として、見ようとしたページが404で閲覧不可だった場合、そのままWayback Machineのアーカイブがあるか確認をすることができます。
今回、2000年代に人気となったサイト「侍魂」にアクセスしたところエラーとなったので、そのままWayback Machineで確認することができました。
ちなみに侍魂のページは無くなった訳ではなく、一時的なエラーで見れなかっただけのようです。
プライバシーポリシーが結構怖い
Wayback Machineの拡張機能を利用するためには、プライバシーポリシーに同意する必要があります。
簡単に言うと、訪問したWebページのURLとステータスコード(正常に表示できたか、エラーとなったか)が、archive.orgに送信され、インターネットアーカイブが存続する限り保持されるとあります。
オプトアウトするオプションもありますが、個人的にはこの拡張機能を利用することはおすすめしません。
アプリ
Wayback Machineは、スマホ向けのアプリも提供されています。
しかし、Webに比べて何か便利な機能が備わっているということもないので、利用する必要はまったくないと思います。
レビューもかなりの低評価です。
著作権的に明らかにまずい作品がアップされている
インターネットアーカイブでは、Webページを保存するだけでなく、ユーザーがアップした画像、音楽、動画、ソフト、ゲームなどを視聴したり、遊んだりすることができます。
しかしちょっと見てみたところ、明らかに著作権を侵害しているコンテンツが多数アップロードされていました。
例えばこちらは、某アニメなのですが、クレジット表示必須、非営利、改変禁止で共有可能というクリエイティブ・コモンズのライセンス表示がされています。
一見それっぽいように見えるのですが、アップロードしたユーザーを確認すると、某ゲームのキャラクター名を使用した一般ユーザーであり、他のアニメもアップしていることから、本来の著作権者とは何の関係もないと思われます。
アニメ以外にも、漫画、TV番組、ゲームなど、これはダメなんじゃないのと思われるコンテンツが散見されます。
どうも仕組みからして、著作権者を保護する意識がないように思えます。
インターネットアーカイブは、高尚な理念を掲げていて、支持者も多くいますが、著作権を無視し対策も放置している状況を考えると、裁判に負けるのは当然であり、個人的には信頼できない団体であるという判断です。
利用者が罰せられることはないと思うが・・・
インターネットアーカイブのコンテンツには、パブリックドメインやクリエイティブ・コモンズのライセンス表示がされているものがありますが、アップロードしたユーザーが勝手につけているだけであり、正しいかどうかはわかりません。
コンテンツの視聴者が訴えられることはないと思いますが、ダウンロードしたり、アップロードしたりすれば、問題になる可能性があります。
心配であれば、プライバシー保護性能の高いブラウザと、VPNを併用するとよいでしょう。