GPS位置情報を共有したくない場合に、機内モードにすればバレずに済むのではないかと思われるかもしれません。しかしほとんどの場合、機内モードにしても、GPSは有効なままです。また、位置を確認できる方法はGPSだけではありません。この記事では、スマホに備わっている無線機能と機内モードの関係、GPS以外で位置情報を取得する方法について、詳しく解説します。
機内モードと位置情報の関係
スマホに備わっている無線機能の種類と、それが機内モードでオフになるかどうかについて解説します。
機内モードにしても位置情報はオフにならない
スマホの機内モードをオンにしても、位置情報(GPS)は、基本的にはオフになりません。
基本的にはというのは、機種やOSのバージョンにより挙動が異なるからです。
昔の機種は、機内モードをオンにすると位置情報もオフになっていましたが、最近はオンのままのものが多いです。
機内モードとは何? 必要な理由は?
スマホや電子機器に備わっている機内モードとは、無線通信を一括でオフにして、電波が発生しないようにする機能のことです。
これにより、飛行機に備わっている通信機器と電波干渉をすることを防ぎます。
電波干渉が発生すると、管制塔との通話にノイズが混じったり、機器が誤動作したりする恐れがあります。
これらを未然に防ぎ、安全な運行をするために、機内モードにすることが義務付けられています。
本当に電波干渉するの?
実際のところ、電波干渉による航空事故は確認されていません。
通話にノイズが混じったというような報告は複数ありますが、それがスマホの電波干渉によるものかは不明です。
昔は全ての無線機能が禁止されていましたが、研究が進んで安全性が確認されたり、電波干渉に強い機器が開発されたりしたことにより、徐々に規制が緩和されてきています。
無線機能の種類と機内モードの関係
スマホには、複数の無線機能が搭載されており、周波数帯や通信距離、用途が異なります。
代表的なものをご紹介します。
携帯通信(4G/5G)
通話、SMS、モバイルデータ通信などに使用します。
周波数帯は700MHz~3.5GHzで、通信距離は数kmに及びます。
後述しますが、機内モードでオフになるのは、主にこの携帯通信です。
Wi-Fi
インターネット接続に使用します。
2.4GHzと5GHzがあり、通信距離は数10mです。
昔は機内モードでオフになりましたが、最近は個別にオンにできることが多いです。
Bluetooth
イヤホンやキーボードなど、短距離通信に使用します。
Wi-Fiと同じ2.4GHzが使用され、通信距離は10mほどです。
昔は機内モードでオフになりましたが、最近はオンのままのことが多いです。
NFC
キャッシュレス決済などに使用します。
周波数帯は13.56MHzで、距離は数cmです。
とても短距離なので、機内モードでもオンのままのことが多いです。
GPS
位置情報の測定に使用します。
周波数は1.575GHzなどで、距離は2万kmにも及びます。
地球の直径が1.2万kmなので、それよりも長いことになります。
衛星からの信号を受信しているだけであり、スマホから発信することはありません。
昔は機内モードでオフになりましたが、最近はオンのままのことが多いです。
そもそもスマホでオフにしたところで、衛星からの電波は降り続けるので、何の関係もありません。
UWB
AirTagやスマートキーなど、機器の正確な位置の検出に使用します。
周波数は6~10GHzで、距離は10mほどです。
最近の機種に搭載されており、機内モードでオフになり、手動でもオンにできないことが多いです。
その他
機種によっては、FMラジオ、赤外線通信(IrDA)、衛星通信、Zigbeeなどの通信機能が備わっていることがありますが、ここでは割愛させていただきます。
規制解除の流れ
これらの通信機能は、最初は機内モードで一括オフにされていましたが、時代とともに規制が緩和されてきています。
携帯通信にしても、機内に設置した小型基地局との通信に限り、利用を許可する動きが出てきています。
将来的には、全ての無線通信が解禁されるのではないかと思われます。
無線機能 | 2010年 | 2015年 | 2020年 | 2030年? |
---|---|---|---|---|
携帯通信 | ✕ | ✕ | △ | ◯ |
Wi-Fi | ✕ | △ | ◯ | ◯ |
Bluetooth | ✕ | △ | ◯ | ◯ |
NFC | ✕ | △ | ◯ | ◯ |
GPS | ✕ | ◯ | ◯ | ◯ |
UWB | ー | ー | ✕ | ◯ |
GPSで位置が分かる仕組み
余談ですが、GPS衛星が電波を発しているだけで、なぜスマホの位置が分かるのかについて、簡単に解説したいと思います。
GPS衛星は「◯時◯分◯秒、この位置にいます」という情報を発信しています。
この電波がスマホに届くまでに、わずかな時間(0.05秒ほど)がかかります。
電波は秒速約30万kmで進むため、時間が分かれば、スマホとGPS衛星間の距離を計算できます。
そして最低3基のGPS衛星からの距離が分かれば、それが交わる位置を計算できるという仕組みです。
実際には精度を高めるために、4基以上のGPS衛星からの距離を使用しています。
なお、GPS衛星自体の位置は、物理法則に従って運動しているので、ある程度正確に予測できます。
また、地上の監視局が常に追跡しており、時刻や位置情報を補正しています。
機内モードに限らず位置情報がバレる原因
GPS以外でスマホの位置を推定する方法を解説します。位置情報を隠したい場合は、これらも考慮する必要があります。
位置情報がバレるのを防ぐには
位置情報を隠したいと思った時、まず誰から隠すのかをはっきりとさせる必要があります。
例えば、以下のような相手が考えられます。
- 家族
- 友人
- 見知らぬ人
- ネットワーク管理者
- サービス運営者(LINEやX等)
- AppleやGoogle
- 通信事業者
- サイバー犯罪者
- 警察
相手が誰かによって方法が変わってくるので、全てを解説することはできないのですが、以下でヒントとなるような情報をご紹介します。
また位置情報と言った場合、通常はGPS位置情報のことを指すことが多いのですが、広い意味で言えば色々な位置情報があります。
それについても解説します。
GPSをオフにする方法
機内モードにしてもGPSはオフにならないので、個別にオフにする必要があります。
OSのバージョンにより微妙に異なるので、参考程度としてください
iOS
- 「設定」-「プライバシーとセキュリティ」-「位置情報サービス」をオフ(アプリごとの設定も可能)
- (特に)「探す」アプリ-「自分」-「自分の位置情報を共有」をオフ
Android
- 「設定」-「位置情報」-「位置情報を使用」をオフ
- 「設定」-「アプリ」- 対象のアプリを選択 - 「許可」-「位置情報」-「許可しない」を選択
- 「Googleアカウントの管理」-「マイアクティビティ」の設定も確認
GPS以外の位置情報
スマホはGPS以外にも、様々な方法でユーザーの位置情報を取得する手段を持っています。
ただしその精度は、国単位から数cm単位まで、様々です。
携帯基地局
接続している携帯基地局(Cell Tower)から、おおよその位置を推定できます。
通信事業者(docomoやau)がこの情報を取得できるのは当然ですが、スマホのハード(SamsungやSONY)やOS(GoogleやApple)メーカーも限定的にアクセス可能です。
またAndroidであれば、一部のアプリも取得可能です。
精度は数百mから数kmで、基地局の多い都会ほど正確になります。
SIMカード
SIMカードには、どこの国で発行されたかという情報が含まれています。
その情報を読むことができるのは、上記と同じで、通信事業者、OS、一部のアプリに限られています。
精度は国レベルです。
IPアドレス
インターネットに接続すると、通常、ローカルIPアドレスとグローバルIPアドレスが割り当てられます。
グローバルIPアドレスからは、契約しているISP(インターネットサービスプロバイダー)が特定され、接続地域もある程度推測できます。
精度はあまり高くなく、市町村レベルです。
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Wi-Fiアクセスポイント
接続しているWi-Fiアクセスポイントから、位置を推定できます。
Wi-Fiアクセスポイント自体は位置情報を持っていませんが、他の情報と組み合わせることで、詳細な地図データベースが作成されています。
精度は数10mです。
Wi-Fi RTT
Wi-Fiアクセスポイントとデバイス間の応答時間から、距離を計算し、室内の位置を特定する方法です。
GPSと同じように、3台のアクセスポイントからの距離が分かれば、位置を計算できます。
主に業務用途で使用されており、一般的にはそこまで普及していません。
精度は1m程度です。
Bluetooth
近くにあるBLE(Bluetooth Low Energy)ビーコンから、位置を推定します。
主に商業施設に設置されていることから、地図データベースの作成も容易です。
精度は数mです。
UWB
AppleやSamsungのデバイスは、自社のデバイス同士で独自のUWB通信を行うことで、位置を特定する機能を持っています。
UWBの通信距離は10m程度ですが、その範囲であれば数cmの精度で特定できます。
モーションセンサー
加速度センサー、ジャイロスコープ、磁気センサーを組み合わせて、移動方向や移動距離を推定します。
他の測定方法の補完として使用されます。
言語設定 / 地域設定
スマホのOSやアプリには、言語、日時(タイムゾーン)、地域(通貨や日付表示)などの設定があります。
ここから、そのユーザーが住む地域を推測できます。
精度は国レベルです。
支払い方法
発行されたクレジットカード、利用できる支払い方法等から、ユーザーが住んでいる国を特定します。
精度は国レベルですが、偽ることが難しいので、かなり強力な確認手段となります。
最近、多くのサービスで利用されています。
画像のメタデータ
カメラで画像を撮影すると、設定によっては、撮影日時、機種、撮影条件、GPS位置情報などのメタデータが画像内に埋め込まれます。
知らずに共有すると、リアルタイムの位置情報ではありませんが、容易に特定できます。
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画像解析
メタデータではなく、画像内に何が写っているかを分析することで、位置を推定します。
有名なランドマークであれば、AIがかなり正確に特定できます。
AIではなく、特定作業が得意な探偵のような人もいます。
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テキスト / 通話解析
SNSに投稿された内容や、通話の音声を解析することで、位置を推定できます。
AIよりも、全体的な文脈を解釈できる人間の方が得意かもしれません。(旅行中に空き巣に狙われるなど)
検索キーワード
検索キーワードからも、ユーザーの位置情報を推測できる場合があります。
主に広告表示に使用されています。
VPNで位置情報が変わる?
VPNを使用することで、位置情報を偽ることができる場合があります。
これにより、例えばYouTubeプレミアムを安く契約したり、コンテンツブロックを回避したりする方法が知られています。
しかし、VPNが変えるのはIPアドレスだけです。
上記のように、位置情報を取得する方法はたくさんあり、特に支払い方法の偽装は困難です。
そのため、VPNを使用しても位置情報が変わらないということはよくあります。
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GPS位置情報を偽装できる?
位置情報を広い範囲で推測する方法はいろいろありますが、誤差数mで特定できるのはGPSだけです。(UWBやWi-Fi RTT等の限定された用途は別として)
しかしGPSは、比較的簡単に偽装をすることができます。
Androidアプリ
Google Playストアでは、「Fake GPS Locastion」のようなGPS位置情報偽装アプリが普通に公開されています。
利用するには、Androidの「設定」-「デバイス情報」-「ビルド番号」を7回タップして開発者オプションを有効にした後、「現在地情報の強制変更アプリを選択」から変更します。
なお、iOSでGPS位置情報を偽装することは、基本的にはできません。
Androidエミュレーター
BlueStacksのようなAndroidエミュレーターには、最初からGPS位置情報偽装機能が備わっています。
iOSユーザーであっても、WindowsやmacOS上でAndroidエミュレーターを動かせば、位置情報の偽装が可能な場合があります。(iOSの方はオフにしておく)
ただしアプリによっては、エミュレーター上で動かなかったり、BAN対象となったりすることがありますので、ご注意ください。
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まとめ 機内モードにすると位置情報を隠すことができるか?
機内モードをオンにしても、位置情報(GPS)はオンのままであるため、隠すことはできません。
GPSは個別にオフにする必要があります。
また広い意味で言えば、位置情報を推測する方法は色々あります。
これらも含めて隠したい場合は、誰から隠すのかを明確にした後、対策を練る必要があります。
ただし通信をする以上、完全に隠すことは困難です。
