最近「ジブリ風」画像をAI生成することがトレンドとなりましたが、アーティストにとっては、自身のアートスタイルをコピーされることは、死活問題となります。GlazeとNightshadeは、そのようなアーティストを画像生成AIから保護するためのツールです。しかしながら、有効性はほとんど期待できないという残念な結果にはなっています。この記事では、GlazeとNightshadeの使い方と、簡単な検証結果についてご紹介しています。
GlazeとNightshadeは意味ない?
GlazeとNightshadeの概要と、有効性、他の対策方法についてご紹介します。
Glazeとは
「Glaze」とは、自身が制作した画像が、画像生成AIに無断学習されることを防ぐツールです。
人間の目には分からない程度のノイズを加えることで、AIが学習しようとしても一貫した特徴を認識できず、それを基に生成しようとすると、結果が崩れてしまうという仕組みです。
シカゴ大学の研究チームにより、2023年に無料公開されました。
Glazeは、WindowsまたはMacで実行できます。
スマホ版は提供されていません。
Web版もありますが、招待制となっており、ハードルは高いです。
詳細は後述します。
Nightshadeとは
「Nightshade」は、同じ研究チームが開発した、より攻撃的に学習データに影響を与えるツールです。
目的は、プロンプト(キーワード、ラベル)と画像の関係性を誤認させることです。
これにより、「タコ」の画像を生成しようとしたら「ウニ」の画像が生成される、というようなことが期待できます。
ただし、人間の目に見えるノイズは、Glazeよりも大きくなります。
GlazeやNightshadeは効果がない?
残念ながら、ほとんどのアーティストや画像生成AIの専門家が、GlazeやNightshadeは効果を実感できないと言っています。
では研究チームは嘘をついているのかと言えば、そんなことはなく、ちゃんとした学術論文で発表された内容であり、再現実験でも効果は確認されています。
- Glaze: Protecting Artists from Style Mimicry by Text-to-Image Models
- Nightshade: Prompt-Specific Poisoning Attacks on Text-to-Image Generative Models
ただし以下のような、特定の条件下で効果が確認できたという話です。
- ゼロから学習した場合のみ有効
- 新規の学習データに対してのみ有効
- 特定のプロンプトに対してのみ有効
- 特定のモデルに対してのみ有効
- 数百枚の学習データが必要
現実には、既に数十億枚の画像データを学習済みであり、さらに画像生成時には、複雑な計算処理が何度も行われます。
その中で、多少のノイズが混じったところで、何の意味もない、というような状況です。
追加学習されることを防ぐという意味はあるかもしれませんが、数十億枚の画像データに対して「自分のアートスタイル」を守ることができるかというと、かなり疑問があります。
他に対策方法はないの?
GlazeやNightshadeは、現在も研究が続けられています。
他にも、ウォーターマークやメタデータを埋め込むなどの方法が提案されています。
しかしいずれも、新規の学習に対して有効な手法であり、既に学習済みのデータに対して何かをするということは難しいようです。
どちらかと言えば、法規制をするように働きかける方が、現実的で有効な対策手段と考えられています。
Glaze/Nightshadeの使い方と、簡単な検証
GlazeとNightshadeの使い方、実際に処理をした例と、ChatGPTを通してスタイルを真似させてみた結果についてご紹介します。
Glaze/Nightshadeを実行する3つの方法
GlazeまはたNightshadeを使うには、次の3つの方法があります。
- Windows/Mac
- アーティスト向けSNS「Cara」
- ブラウザ版「WebGlaze」
それぞれについて解説します。
WindowsまたはMac
公式サイトから、Glaze/Nightshadeのアプリをダウンロードして使う方法です。
無料で使用でき、アカウント登録も必要ありません。
Windowsの場合、だいたい以下のようなスペックが必要です。
- NVIDIA GTX 1060以上
- VRAM 4GB以上
- メモリ8GM以上
Stable Diffusion等の、画像生成AIをローカル実行できるかが目安となるでしょう。
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Cara
推奨スペックのPCがないという方は、アーティスト向けSNSの「Cara」に登録すると、Glaze機能を利用できます。
ブラウザ版
それもできないという方には、ブラウザ版の「WebGlaze」も提供されていますが、利用するには、開発者に直接アカウント申請をする必要があります。
自身がアーティスト本人であることを証明するための動画を撮影し、InstagramまたはBlueskyでDMにて依頼するというもので、少し現実的ではありません。
ローカルで実行するか、Caraの利用が推奨されています。
スマホで利用するには?
スマホアプリは提供されていないので、Caraをブラウザから利用するという形になります。
Glazeの使い方
公式サイトにアクセスし、「Downloads」をクリックします。
画面を下にスクロールし、ファイルをダウンロードします。
今回は、Windows版を選択しています。
ZIPファイルを展開し、「Glaze.exe」をダブルクリックして実行します。
画面はこのようになっています。
左上の「Select」で、処理をしたい画像を選択します。複数選択することもできます。
Intensityはノイズの強度です。HIGHの方が効果的ですが、見た目も悪くなります。
Render Qualityは処理にかける時間です。だいたい目安時間の通りとなりました。
「Save As」でアウトプットフォルダを選択します。
後は「Run Glaze」をクリックすれば、処理が開始されます。
実行できない
PCは推奨スペックを満たしているはずですが、最初、以下のようなメモリ不足エラーで実行できませんでした。
Your computer currently do not have enough memory to run Glaze. Please close other apps and try again.
指示通り、他のアプリ(ブラウザ等)を閉じたところ、正常に実行できました。
アンインストール
アンインストールするには、展開したフォルダと、以下のフォルダを削除します。
C:\Users\【ユーザー名】\.glaze
Nightshade
Nightshadeの使い方は、Glazeとほぼ同じです。
公式サイトからファイルをダウンロードし、ZIPファイルを展開して、実行します。
Glazeとの違いは「Tag」という項目がある点です。
このTagに対して誤ったデータを学習させる、ということのようです。
Tagは自動的に認識されますが、手動変更もできます。
上記では、「Slowest」で20分と表示されているのですが、実際にはGlazeより速く、3分程度で完了しました。
効果検証
GlazeとNightshadeに効果があるか、簡単な検証をしてみました。
検証の方針
アーティストが自身のアートスタイルを守れるかという視点で、GlazeやNightshadeの効果を検証するには、自身が作成した数百枚の画像データを用いて、画像生成AIに学習処理をし、結果を比較する必要があり、とても大変です。
ここでは逆に、特定のアートスタイルを模倣したいユーザーが、画像生成AIを利用するとどうなるかいう視点で、簡易的な検証をしたいと思います。
無加工
テスト用画像として、こちらのイラストをお借りしました。
この画像をChatGPT(DALL-E)に読み込ませ、以下のような指示をしました。
このアートスタイルを真似て、女性の全身画像を生成してください
結果がこちらです。
質感や色使いが変わっているので、アートスタイルが真似されているかは評価が分かれるところですが、デザインは完璧に真似されていると言っていいでしょう。
Glaze
元画像に対し「Intensity = HIGH」「Render Quality = Slowest」でGlaze処理したところ、以下のようになりました。
よく見ると、ノイズが乗っていることが分かります。
これを同じくChatGPTに読み込ませ、全身画像を生成してみます。
ほぼ同じ結果となりました。
ノイズが、微妙なタッチの違いを生み出しているような気もします。
Nightshade
同じく元画像に対し「Intensity = HIGH」「Render Quality = Slowest」でNightshade処理したところ、以下のようになりました。
ノイズというか、汚れのようなものが目立つようになりました。
同じくChatGPTで全身画像を生成したところ、以下のようになりました。
こちらもほぼ同じ結果となりました。
そもそもNightshadeは、特定のプロンプトを妨害するというものなので、今回のような検証に最初から意味はないのかもしれません。
まとめ GlazeとNightshadeは意味ない?
GlazeとNightshadeは、シカゴ大学の研究チームが開発している、画像生成AIに無断で学習されることを防ぐ技術です。
ただし、新規で学習されるデータに対してしか有効でないため、現実的にはほとんど意味はありません。
逆に、ノイズが目立つという、デメリットの方が大きくなる可能性もあります。
アーティストにとっては難しい状況ですが、法規制に働きかける方が、健全かもしれません。
