暗号メッセージアプリとしては「Signal」が有名ですが、登録に電話番号が必要となり、中央サーバーを経由するので、匿名性は低いです。BRIARは、電話番号が不要で、中央サーバーも存在しないので、高い匿名性を持つメッセージアプリです。ただし基本的に、Androidでしか使用できません。この記事では、BRIARの基本と使い方、Signal、Sessionとの違いについて解説します。
BRIARとは
BRIARの特徴と、Signal/Sessionと何が違うのかをご紹介します。
BRIARの特徴
「BRIAR」とは、中央サーバーを介さず、P2Pのデバイス間で通信を行う、分散型の暗号メッセージアプリです。
ジャーナリストや活動家など、高い秘匿性が求められ、かつ常時インターネットに接続できないような過酷な環境でも、安全に情報をやり取りできるようにすることを目的としています。
以下のような特徴があります。
無料かつオープンソース
BRIARは、非営利団体「Briar Project」によって開発されています。
ソースコードは公開されており、完全無料にて使用できます。
広告が表示されることもありません。
iPhoneは非対応
Briarは、Androidに対応しています。
Windows、macOS、Linuxはベータ版として使用できます。
iOSは、現時点で利用できません。
柔軟な通信手段
Briarは、インターネット上ではTorネットワークを使用します。
インターネットがオフフラインの場合は、ローカルネットワークのWi-Fi、Bluetoothを利用します。
または、暗号化されたメッセージファイルを、USBメモリ等で物理的に手渡すこともできます。
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高いセキュリティと匿名性
Briarのメッセージは、全てエンドツーエンドで暗号化されるので、送信者と受信者のみが内容を知ることができます。
中央サーバーを介さないので、データが検閲されたり、漏洩したりする心配がありません。
前方秘匿性(暗号鍵が漏洩しても過去の内容は解読できない)、否認性(自分が通信相手だと証明できない)に対応しています。
電話番号やメールアドレスの登録は不要で、パスワードのみで利用できます。
マルチデバイスは非対応
Briarは、デバイス間で同期をしたり、バックアップをしたりすることはできません。
パスワードを失念したり、デバイスを紛失したりした場合は、そのアカウントのデータは失われます。
BRIAR、Signal、Sessionの比較
現在、暗号メッセージアプリとしては「Signal」が主流です。
米国議会でもSignalが使用されていることが確認され、話題となりました。
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Signalは中央サーバーを持つことから、分散型の「Session」が推奨されることがあります。
しかしSessionは、前方秘匿性と否認性を排除していることが問題視されています。
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違いを表にまとめると、以下のようになります。
機能 | Signal | Session | Briar |
---|---|---|---|
電話番号が必要 | 必要 | 不要 | 不要 |
中央サーバーあり | あり | なし | なし |
Android | ◯ | ◯ | ◯ |
iOS | ◯ | ◯ | ー |
デスクトップ | ◯ | ◯ | △ |
インターネット通信 | 通常のインターネット | 独自のOnionルーティング | Torネットワーク |
オフライン通信 | ー | ー | Wi-Fi、Bluetooth、物理メディアに対応 |
エンドツーエンド暗号化 | ◯ | ◯ | ◯ |
匿名性 | ー | ◯ | ◯ |
検閲耐性 | △ | ◯ | ◯ |
前方秘匿性 | ◯ | ー | ◯ |
否認性 | ◯ | ー | ◯ |
テキストメッセージ | ◯ | ◯ | ◯ |
音声通話 | ◯ | △ | ー |
ビデオ通話 | ◯ | ー | ー |
マルチデバイス同期 | ◯ | ◯ | ー |
バックアップ | ◯ | ◯ | ー |
これを見ると、BRIARはSignalやSessionと比較しても、高いセキュリティと匿名性を持っていることが分かります。
一方で音声通話などの機能で劣っていることと、何よりiOSに対応していないことが致命的と言えます。
下記で使い方をご紹介しますが、かなり用途が限定されるのではないかと思います。
BRIARの使い方
BRIARの基本的な機能と注意点について解説します。
インストール
AndroidとWindows版アプリのインストール方法をご紹介します。
現在のところ、iOSには対応していません。
Android
Android版のBriarは、「Google Play ストア」または「F-Droid」からインストールできます。
Windows
公式サイトのトップページを見ると、デスクトップ版のバージョンが「2023年8月31日」であり、ずっと更新されていないような印象を受けますが、これはブログが投稿されていないというだけです。
「ダウンロードページ」には、「2025年2月18日」更新とありますので、開発は続いていることが分かります。(それでも遅いとは思いますが)
ダウンロードしたインストーラーを実行します。
Microsoft Defenderの警告が表示される場合は「詳細情報」をクリックします。
「実行」をクリックします。
「Next」をクリックします。
「Next」とクリックします。
「Install」をクリックします。
「Finish」をクリックして完了です。
Android版もデスクトップ版も、ほぼ同じです。
しかしデスクトップ版の方は、Bluetooth接続が使用できないようです。
アカウント登録
アプリを起動したら、まず自分の「ニックネーム」を決めます。
これは後から変更できません。
次に「パスワード」を決めます。
このパスワードは、アプリ内にのみ保存され、サーバーに送信されるということはありません。
つまりパスワードを忘れたら、復旧することはできません。
またログインに使用するのは、このパスワードのみです。
つまりアプリを再インストールしたら、別ユーザーとなるので、データが引き継がれるということはありません。
アプリのバックグラウンド通信を許可します。
BRIARは、基本的に双方がオンラインでないとメッセージの送信ができないので、必須となります。
「許可」をタップします。
「アカウントを作成」をタップして完了です。
連絡先の登録
何をするにしても、まずは通信相手の登録が必要となります。
右下の「+」をタップします。
近くにいる人(対面)か、離れた場所にいる人(ネットワーク経由)を選択します。
まずは「近くにいる人を連絡先に追加」としてみます。

近くにいるかどうかは、Bluetooth通信できるかどうかで判断します。
その後、画面にQRコードを表示し、お互いに読み取ることで連絡先への追加が完了します。
今回のテスト環境では、Bluetooth通信を使用できなかったので、この方法で登録することはできませんでした。
代わりに、「離れた場所にいる人を連絡先に追加」をタップします。
自分の連絡先リンクが表示されるので、相手に送信し、登録します。
この登録作業は、双方で必要です。

ニックネームの登録をします。
これは後から変更できます。(ニックネームのニックネームと言えるかもしれません)
登録が完了しました。
「検証されていない連絡先」と表示されていますが、これは対面でのQRコード登録をしていないためです。
メッセージ送信
連絡先の登録が完了したら、メッセージのやり取りをすることができるようになります。
LINE等の一般的なメッセージアプリと異なり、サーバーを経由しないので、お互いのアプリがオンラインの時に送信が完了します。
送信が完了すると二重のチェックマーク「✓✓」が入ります。
消えるメッセージ
一定時間で、自動的に削除される「消えるメッセージ」を設定することもできます。
しかし現状、7日間で固定となっており、消えるまでの時間を設定することができません。
消えるメッセージを設定すると、以後のメッセージは、受信から7日後に順次消えていきます。
リムーバブルメディア送信
Briarは、インターネット接続ができない場合でも、Bluetoothや物理メディアを使用して、メッセージの送受信をすることができるようになっています。
今回のテスト環境ではBluetoothを使用できないので、物理メディアを使った方法をご紹介します。
物理メディアと言っても、ただ単にファイルをエクスポート/インポートできるという話なので、手渡す手段は何でも構いません。
(この画像では異なりますが)相手がオフラインで、送信保留になっている状態で、「リムーバブルドライブ経由で接続する」をタップします。
「データ送信」をタップします。
「エクスポート用ファイルを選択してください」をタップします。
「終了」をタップします。
以下のような、暗号ファイルがエクスポートされます。

このファイルを受信側に何かしらの手段で渡し、「データ受信」からインポートしてもらいます。
メールボックス
BRIARは、デバイス同士でメッセージのやり取りをすることが基本ですが、中継サーバーとして「BRIARメールボックス」という、Androidアプリを提供しています。
これにより、送信側が「今はインターネットに接続できているが、今後オフラインになるかもしれない」という状況の時に、とりあえず送信だけしておく、ということが可能となります。
そのためには、メールボックスアプリを、安定したインターネット環境にあるAndroidデバイスに別途インストールしておく必要があります。
二重の「✓✓」が入っているメッセージは、相手がオンラインになり、正常に受信できています。
「✓」が一つの場合は、相手はオフラインだが、代わりにメールボックスがメッセージを預かっていることを意味します。
メールボックスが設定されていない場合は、送信保留となるので、状況によってはメッセージを送信するタイミングがないということになりかねません。
非公開グループ、フォーラム、ブログ
BRIARには「非公開グループ」「フォーラム」「ブログ」という、似たようなグループ投稿機能が備わっています。
違いがとても分かりにくいのですが、以下のようになっています。
機能 | 非公開グループ | フォーラム | ブログ |
---|---|---|---|
招待権限 | 作成者のみ | 参加者であれば誰でも | 連絡先が自動的に表示 |
管理 | 作成者が退出すると解散 | 最後のメンバーが退出するまで存続 | 常時有効 |
メッセージ構造 | スレッド | スレッド | 単一投稿 リブログ(引用投稿) |
用途 | グループ会話 | 幅広い議論 | 一方的なお知らせ |
フォーラムやブログは、連絡先以外のユーザーにも情報が表示される可能性があるので、注意が必要です。
例えば、このフォーラムの「User2」は、連絡先登録をしていないのですが、同じフォーラムに参加しているので表示されています。
そのため「見知らぬ人」となっています。
リブログをすると、共通の連絡先以外のユーザーにも内容が表示される可能性があります。
慣れるまでは、非公開グループだけを使用することをおすすめします。
まとめ BRIARの使い方とは
BRIARは、Torネットワークを使用した暗号メッセージアプリです。
中央サーバーがなく、デバイス同士のP2Pでメッセージを送受信するので、検閲される心配がありません。
またメールアドレスや電話番号の登録も不要なので、高い匿名性を維持することができます。
さらに、インターネットに接続できない状況を想定し、Bluetoothや物理メディアでもメッセージの送受信ができるようになっています。
ただし、iPhoneに対応しておらず、Androidとデスクトップでしか使用できないことから、用途はかなり限られると思われます。
Signalの使用が制限されるような環境での、少人数のグループ向けと言えるでしょう。